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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(行ツ)52号 判決 1967年9月19日

上告人 株式会社まからずや洋品店

被上告人 神戸税務署長

訴訟代理人 水野祐一 外五名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人安藤真一、同奥村孝、同阿部清治の上告理由について。

論旨は、要するに、本件更正処分が再更正処分によつて取り消されたとして、更正処分の取消を求める訴の利益を否定した原審の判断は、法人税法(昭和三四年法律第八〇号による改正前のもの。以下同じ。)三一条一項の適用を誤つたものであるという。上告人は、被上告人税務署長が上告人に対し昭和三三年三月三一日付をもつてした昭和三一事業年度の法人税に関する更正(第一次更正処分)の取消を求めるものである。しかして、原判決の確定した事実によれば、被上告人税務署長は、本件訴訟係属後の昭和三五年四月三〇日にいたり、訴訟で攻撃されている右更正処分の瑕疵を是正するために、同日付で、更正の用紙を用い、上告人の昭和三一事業年度の所得金額を確定申告書記載の金額に減額する旨の再更正(第二次更正処分)と、更正の具体的根拠を明示して、申告に係る課税標準及び税額を第一次更正処分のとおりに更正する旨の再々更正(第三次更正処分)をなし、右二個の処分の通知書を一通の封筒に同封して上告人に送付した、というのである。右の事実関係の下においては、第二次更正処分は、第三次更正処分を行なうための前提手続たる意味を有するにすぎず、また、第三次更正処分も、実質的には、第一次更正処分の附記理由を追完したにとどまることは否定し得ず、また、かかる行為の効力には疑問がないわけではない。しかしながら、これらの行為も、各々独立の行政処分であることはいうまでもなく、その取消の求められていない本件においては、第一次更正処分は第二次更正処分によつて取り消され、第三次更正処分は、第一次更正処分とは別個になされた新たな行政処分であると解さざるを得ない。

されば、第一次更正処分の取消を求めるにすぎない本件訴は、第二次更正処分の行なわれた時以降、その利益を失うにいたつたものというべく、これと同趣旨に出た原審の判断は正当であり、論旨は、排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官田中二郎の反対意見があるほか、全裁判官一致の意見により、主文のとおり判決する。

裁判官田中二郎の反対意見は、次のとおりである。

本件は、更正処分の取消訴訟の性質をどのように理解するかにかかる問題であり、さらに一般的に、取消訴訟の本質ないし訴訟物をどう考えるべきかの根本問題につながる問題でもある。この点について多数意見の示した見解は、従来の普通の見解に従つたものといえるが、このような従来の一般の考え方に対して、私は、疑問を抱かざるを得ない。本件の結論として、私は、多数意見とは反対に、原判決及び第一審判決を破棄して第一審に差し戻し、第一審において、本案について実体判断を下すべきものと考える。

次にその理由を述べる。

一、まず第一に、更正処分の取消訴訟の本質をどう考えるべきか、その訴訟物をどう理解すべきかが問題である。従来一般には更正処分の取消訴訟は、特定の更正処分そのものの取消を求める訴訟として理解されてきた。そして多数意見も、この従来の普通の見解に従い、本件第一次更正処分は、これに対する取消訴訟の提起後、第二次更正処分によつて取り消され、第三次更正処分は、第一次更正処分とは別個になされた新たな行政処分であるとし、第一次更正処分の取消を求めるにすぎない本件訴は、第二次更正処分の行なわれた時以降、その利益を失うにいたつたものとみるべきであるとし、これと同趣旨に出た原審の判断を正当として支持している。

更正処分の取消訴訟を法文の字句に即して形式的に解釈すれば、右のような考え方も一応成り立つであろう。しかし、この訴訟の本来の狙いに即して実質的に解釈すれば、確定申告額の正当性を主張する納税者たる原告は、更正処分によつて正当な納税額を超える課税をされたことに対して、当該更正処分を形式上の手がかりとして、実質的に当該更正処分による課税の違法を主張し、その違法状態の排除を求めているものにほかならない。もつとも、訴訟手続的には、再更正・再々更正等の処分がされた場合にこれらの処分に不服がある者は、不服申立前置を必要としないで、訴の追加的併合(又は訴の変更)をなし、あわせて(又はその)裁判を求めることができることになつてはいるが、このような行政庁の一方的な再更正・再々更正の処分に対し、常に納税者に相次いで訴の追加的併合(又は訴の変更)をなすべきことを要求するということは、あまりにも、訴訟技術に拘泥しすぎ、納税者の救済制度の趣旨にそわない解釈であるというべきではなかろうか。私としては、第一次の更正処分の取消訴訟が提起された後、さらに第二次の再更正処分、第三次の再々更正処分等がなされた場合において、これらの処分が、依然、納税者が正当として主張する税額を超えるものである以上、第一次更正処分の取消訴訟はこのような違法状態の排除を求めることに、その本来の目的があるのであるから、必ずしも、常に訴の追加的併合(又は訴の変更)の措置をまつまでもなく、第二次の再更正処分及び第三次の再々更正処分も、第一次更正処分の取消を求める訴訟の中に含まれるものと解するのが更正処分に対する取消訴訟の救済制度としての趣旨・目的にそう解釈ではないかと考える。

二、右に述べたところは、一般的に、更正処分の取消を求める訴訟についていい得るところであるが、仮りに一般的に、こういう解釈をすることに問題があるとしても、少なくとも、本件の具体的事案については、右に述べた結論を支持する理由があると思う。次に、その理由を述べる。

具体的に本件の更正処分の経過をみるに、本件では、第一次更正処分が取消訴訟の対象とされた後に、上告人(原告)の所得金額を確定申告書記載の金額と同額とする旨の第二次の再更正処分と、更正の理由附記を追完しただけで、申告にかかる課税標準及び税額を第一次更正処分のとおり更正する旨の第三次の再々更正処分とが、同時に、一通の封筒に同封されて上告人に送付されたというのである。してみれば、これらの第二次の再更正処分と第三次の再々更正処分とは、それぞれ、別個の処分のような形式をとつてはいても、これらの処分を、それぞれ、別個にされた有効な更正処分とみるべきかどうか頗る疑わしく、かえつて、第二次の再更正処分は、第一次更正処分が理由附記を欠く瑕疵を有することを認めて、一応、形式上これを白紙に戻すこととすると同時に、第三次の再々更正処分によつて、課税標準及び税額は、第一次更正処分のとおりにしたまま、その理由附記を追完しただけにすぎないのであつて、第二次の再更正処分と第三次の再々更正処分とは、相まつて、第一次更正処分に理由附記を追完するためにとられた措置にほかならないのではなかろうか。従つて、たとえ、形式上、別個の処分のような形式・外観をもつていても、法律が一般に予定しているように更正処分が新らしい事実の判明するに伴つて次々に積み重ねられていく場合(この場合にも第一次更正処分の取消訴訟の目的が消滅すると解すべきではなく、新たに加えられた部分のみが、右の取消訴訟の対象になつていないという解釈をする余地があるにすぎないと考える。)とは、全くその性質を異にし、単に理由附記を追完するための便宜措置として、第二次及び第三次の更正処分を同時にしたにすぎず、これらを、それぞれ、全く別個独立の処分と考えるべきものではない。むしろ、その内容と実質について考察すべきであつて、この見地からすれば、第二次の再更正処分及び第三次の再々更正処分は、本来の更正処分とみるべきものではなく、第一次更正処分と第三次の再々更正処分とがその理由附記が追完されている以外は、その内容が同一である点からみても、理由を附記するためだけの修正・正誤にほかならず、取消訴訟上、別個独立の処分とみるべきものではない。殊に、本件取消訴訟の対象になつているのは、正に、その内容であつて、内容そのものは何ら異なるところはない(第二次の再更正処分は、形式上、原告の主張するとおりに更正しているのである)のであるから、訴の追加的併合(又は訴の変更)の措置をとるまでもなく、第三次処分の内容が、正に、本件訴訟の対象になつていると解すべきである。この点に関する多数意見のとる見解は、処分の形式・外観に拘泥しすぎ、訴訟技術の末に走つた感があつて、とうてい賛成することができない。

三、最後に、一言つけ加えておきたいことは、若し、多数意見の認めるように、被告行政庁の側で、自由に、第二次、第三次の更正処分を行なうことができ、しかも、原告側で、これに応じて、訴の追加的併合(又は訴の変更)をしない以上、その主張がすべて排斥されざるを得ないことになれば、原告側の煩は堪えがたく、殊に、訴訟法に精通しない原告側は、被告行政庁側の措置にふり廻わされることになつて、救済制度として重要な役割を果すべき取消訴訟の目的は達せられないことになることをおそれざるを得ない。

このような被告行政庁側の措置が、敗訴を免れるために意識的にされたような場合には、あるいは更正権の濫用として、あるいは信義則の違反として、その効力を否定することもできるであろうが、そのような理論をまつまでもなく、訴訟の実体を洞察し、納税者や一般国民の納得のいく判断がなされなければならない。本件についても、原告に門前払いを喰わせることなく、実体について判断を下すのが相当で、原判決及び第一審判決を破棄し、第一審に差し戻し、本案について審議させるべきものと考える。

(裁判官 横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎)

上告理由

被上告人は、会社の所有する建物を著しく低い価額で譲渡したものと認め、当該譲渡価額とその時における当該資産の価額との差額を譲受人に贈与したものとみなし、これを寄付金として扱つた処分をし更正したが右処分は当時税法上全く認められないことで、違法であるから取消されたい。

右に対し被上告人は「取消したと」主張されているが、左記理由で正当な取消になつていない。即ち控訴裁判所は次の如き理由により法人税法第三一条に違反した判決をしている。

一、被上告人は昭和三三年三月三一日付更正処分(以下第一次更正処分という)における更正の所得金額が「過額」であつたとして過額分全額を減額する為に昭和三五年四月三〇日付法通第五六一号更正処分(以下第二次更正処分という)を為した。

然し「過額」を全額減少して消滅させることは更正ではなく取消処分でなすべきである。それを更正でしているというのは根本的な誤りを犯しているのであり、これが法人税法第三一条にいう更正とは言い難く、よつて第二次再更正処分により第一次更正処分が取消されたとは言えない。

二、右第一次更正処分に対して、上告人は税法上の審査請求をし大阪国税局長より処分相当審査請求理由なしとの審査決定をうけている。そこで右審査請求を棄却する旨の決定を取消すべく本訴に及んでいる訳である。

行政機関による審査段階なら未だしも既に裁判所において司法審査の段階に入つているのに被上告人は、第二次更正処分をしたのである。そして第一次更正処分は取消したという。これでは国民が権利を国家機関から侵害され、法の救済を裁判所に対して求め得なくなり、国家権力の濫用に対する法による救済が出来なくなるばかりか司法権に対する行政権の介入であり、三権分立の精神に反する。

従つて右の如き段階での第二次更正処分は右第三一条における更正の予想するものではない。従つて右を適法の更正と見た原判決は誤つており、被上告人は本件の目的とする処分を結果的には取消したと主張してもそれをもつて更正処分の取消を求める請求は訴の利益を欠に至つたことにはならない。

三、次いで、更正に対する法条は法人税法第三十一条に定められて居り昭和三三年三月三一日迄は課税標準又は税額に不足額があることを知つたときに更正ができると規定されていたのを昭和三四年法律第八十号で不足額に「過」を挿入「過不足」……と改正されたものであつて、これに対しての施行規則は昭和三四年政令八十六号で公布になり共に昭和三四年四月一日より施行されたものであり、同施行規則附則2にこの附則において特別の定がある場合を除くほか、改正後の法人税法施行規則の規定は、法人の昭和三四年四月一日以降終了する事業年度分の法人税について適用し、法人の同日前に終了した事業年度分の法人税についてはなお従前の例による。と定められていて本件は昭和三二年六月三〇日に終了した事業年度分であるから当然改正前の規定によるべきであるから「過」を挿入した条項の適用は誤りである。この点についても原判決は右第三一条に違反している。

四、更に原判決理由で「控訴人主張の如く更正処分を相当とし、審査請求理由なしとする審査決定があつた後においても前記の如く更正処分に法所定の附記理由に不備があり、違法があつた場合原処分庁がこれを再更正することをさまたげるいわれはないものというべきである」と述べられているが抑々更正の際の理由附記は課税標準税額の更正に対応すべきものであるからそれに不備違法がある場合はその更正自体が取消されるべき処分というべきであるに拘らず「理由附記が不十分であり理由欄の金額が誤記されていて、形式的な不備があつたので、結局において第一次更正処分の金額が過額になるとしてその処分を取消すため更正を行つたとし、引続いて取消されと主張する第一次更正と同額の課税標準額の第三次更正をしていることは第三次更正に理由附記を置替えるためにした更生というべきであり、法人税法上の課税標準税額に過不足額がある場合にする更正に該当しないものであるから違法というべきである。

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